後藤ひろひと/インタビュー

1995年7月24日に、遊気舎座長(当時)の後藤ひろひとにインタビューしました。

★(上念)先日の「フリオ」は、後藤さんが原作で、鷹田夜里子さんが演出だったわけですが、他の人に演出を任せたことで、違和感のようなものはあったでしょうか?

◎(後藤)いや、今回はとても喜んでたんですよ。俺が書いて誰かが演出するということは、初めてじゃないんですよ。遊気舎用に書いたものをどこかがやるということじゃなくて、一度立身出世劇場にオムニバス形式で書き下ろしたことがあったんですよ。それを佐久間広一郎という男が演出して、それがとっても腹が立つような作品になっちゃったわけですよ。そういうことがあったんで、一種の恐怖症はありましたね。ちょっと、この台本を任せっきりにしていいものか、というところがね。

★佐久間さんの演出で怒っちゃったというのは、どういうところでだったんですか?

◎芝居の中に、テーマを探しちゃったんですね。それがとんでもない、書いてもいない政治的なメッセージを探し出しちゃって。具体的に言えば、夜中に台本書いてるでしょ。ちょっとコーラ中毒的なところがあってね、コカコーラを買いに行こうとするんだけど、コカコーラの自動販売機ってのがものすごくまぶしいんですよね、夜中の街で。家の中も汚れきった蛍光灯であまり明るくないんでね。出かけてコカコーラを買おうとすると、まぶしくって買えないんですよ。それがすごく腹が立って。割ってやろうかって思うぐらい腹の立つ日があるんですよ。それが元になった話なんですけどね。その、たまたま赤と白のコントラストが気に入らないっていうだけで、夜な夜な自動販売機を壊すっていう男が都会には4人いるという話だったんですよ。それをどうもね、佐久間広一郎という男はね、赤と白が嫌いというのは、そういう国旗の国があるから、そのことなんだと、これは左翼思想の芝居なんだというので、劇団員にもそれを統一させてやっちゃったんですよ。

★それは洒落やパロディとしてではなく、まじめにそう解釈されたわけですか?

◎まじめですよ。俺との会話ってのがほとんどないままに行われたんでね。それでとっても腹が立って。佐久間広一郎という人とは今でも仲はいいんですけどね。あの作品に関しては「あんたに任せて失敗だった」って面と向かって言いますから。

★ということは、基本的に後藤さんはお芝居の中にテーマ性とかをはっきりと盛り込むということはしないんですね。

◎それは、しないですね。芝居が何かを解決するとか、そういうことって、絶対あり得ないですからね。何か考えさせるヒントを与えたくてやってるんですけどね。

★幼年時代の原体験であったり、見えない心の傷であったり、人間の本質的なものに至る痛みとか、トラウマという言葉が使われていたようにも思いますが、そういうものをきっかけにしてということでしょうか?

◎実はね、探ってみると俺は別につらい幼年期を送った覚えもなければ、ものすごい目にあったこともないですよ。皮膚病、アトピーになったとき、俺は死ぬのかなと思ったけど、成長期が過ぎたら治りましたからね。そのぐらいですね、俺が自分のことを不幸じゃないかと思ったのは。もしかしたら、そういうふうに感じてる人たちいっぱいいるかも知れないけど、もしかしたら自分で見えていない不幸や悲しいことがあったのかも知れませんけどね。わりと身に覚えのないことが多いですね。自分の原体験とか幼児体験とかを脚本にしてるってことはないと思いますね。

★「とかげ親父」にあったような、後藤さんのお宅のそばに古い蔵があって、そこで何かうごめいているものがいたとか、そのままには思わないでしょうけど。

◎まあね。でもね、そういう話は、田舎だったんでね。俺個人の話ではないですけど、あれはおじさんが俺に小さい頃してくれた話が元になってるんですよ。「とかげ親父」と呼んではいなかったですけどね。なんとか鬼っていうような呼び方で、毎日のぞきに行ってたって。やっぱりそれは病気の子を土蔵に隠してたっていうことらしいですよ。

★本当にあったことなんですか。

◎ええ。そういうのはいろいろ覚えてるんですよ。その前あたりに「じゃばら」っていう見世物小屋の話をやったんですけど、エレファントマンの話なんですけどね、やっぱりちっちゃい頃から見てました、見世物小屋を。そういうのは残ってるかもしれないですね。★自分自身の傷とかではなく、環境というか、身の回りにはそういうことがあったわけですね。

◎ええ、そうですね。だから、たぶん自分にかんするそういう傷を台本にして表現するなんてことは、まだできないでしょう、怖くて。怖いということもあるし、あまり面白いことともやりたいこととも思ってないですし。

★それでも、幼年時代の周囲のことを書き込んでいくことで、少しずつ自分自身の存在に近づいているという意識はおありですか?

◎それは、ありますね。

★それをどんどん進めようとされていますか?

◎どうでしょう、それは自然に出て来ちゃう部分で。

★テーマ性というようなことではないというお話もありましたね。そういう個人の私性に向かうような姿勢というと、いわゆる「文芸路線」という言い方があったように思いますが。

◎あれはうちの制作がうまいこと宣伝のために書いてることですよ。そんなこと、絶対に思わないですね。

★新しいお芝居を作るときに、今度のはちょっと方針を変えてみようとか、思われますか?

◎それはありますね。

★じゃあ、今度の「ピロシキ」については、どういうふうに変えていこうと思われているんでしょうか。

◎わりと、きっちり収まっちゃうものを何本か作ってみたんですよ。最近の「フリオ」とかその前の立身出世劇場に書いた「ペガモ星人の逆襲」とか、うちの「7144……」とか。あそこまでやったらね、もういいやっていうのがあるんですね、今。もう、荒れようと。

★たしかに「7144……」は、内田淳子さんを招いて、きれいにまとまったお話だったなというような印象を受けたんですが。

◎これはぜひ書いてほしいんですけどね、たぶんあれが俺の最低の作品ですね。劇団にとってはどうかわかりません。あれで非常にまとまっててわかりやすかったからっていうんで、初めて見るお客さんとかもいっぱいついてきたしね。でも、俺は間違いなくあれは最低の作品を書き上げられたな、と。意図はしてたんですけどね。

★意図して最低の作品を書いた?

◎ええ。俺、あんなものテレビでやってたら、絶対消しますよ。

★それは、途中から「これは最低作になるぞ」という感触があったんですか?

◎いえ、違います、頭から。うちの芝居をやるとね、前3列ぐらいは頭悪そうな高校生とかOLがずらーっといるんですよ。あの人らが嫌いなんですね、とにかく、俺。他にも、笑う準備して待ってるような客が大阪と、東京もどんどん増えてきましたけど、その人たちが大嫌いなんですよ。その人たちに対するメッセージとして、お前らなんかどうせこんなんが面白いんだろうっていうのを作ろうとしたんですよ。

★でもきっとその人たちは、すごく面白がって、喜んで、内田さんかわいいな、さすが後藤さん、すてきなお話作るよなって思ったでしょうね。

◎そうでしょうね。

◎どうなんでしょうねえ。だから、俺にそれができるかどうか、自分で試してみたかった部分もあるんですよね。

◎もちろんそうです。もう二度とあんな芝居はしないですよ。間違いなく、最低の作品です、あれは。チラシも、いつものと全く違うようなのを作ってたじゃないですか。台本の1行目書くずっと前にできてたんですよ、チラシは。セーラー服の後ろ姿のやつね。これをやりたいと思いますか、俺が。

★まあ、このチラシを見ると、遊気舎のお芝居とは思えませんよね。

◎思わないでしょ? 全く違う人に、黒田さんという人に頼んで作ってもらったんですけどね。そのぐらい、最低のものを作るぞっていう意気込みだったんですよ。ところが俺が悲しかったのは、いろんな信頼してた人からまで、「あれ面白かったですよ、こないだの最高ですよ」って言われて、俺、今人間関係をどんどん削ぎ落としてるところなんです。「お前らも一味か」っていう感じですね。

★遊気舎以外の人を客演で迎えるというのは、面白いことですか?

◎面白いですね。やっぱり新鮮味がありますし、刺激を受けますしね。

★その時は、この人に出てもらおうと思って、当て書きするんですか?

◎しますよ。

★「7144……」だったら、内田淳子の?

◎でも、内田淳子の芝居、ほとんど見たことなかったんですよ。制作の方からアドバイスされて。会ったこともなかったですから。

★じゃあ舞台上の内田淳子をほとんどご存じなくて。

◎そうですね。やること決まってからビデオ借りて見たり。

★「フリオ」の演出については、満足してらっしゃるわけですね。

◎そうですね。満足とまではいきませんけど、やっぱり面白かったですね。俺だけじゃできない演出があって、ダンスで表現したりとか。あんなもの字で書きようがないですから演出の世界でしかないし。思い切ったことしますよね、女性が演出だと、プシューっと煙出したり。あんなこと面倒くさくてしませんよ、俺。ひじょうに思い切ってますよね。また、おそらくオンリミット単独ではああいう発想のああいうストーリーは生まれなかったであろうし。俺単独で遊気舎であんなものをやろうということはまずなかったでしょう。お互い面白いものができたね、という話をこないだもしたんですけどね。

★「ペガモ星人」「7144……」「フリオ」という、一つのまとまった流れのようなものは、もう当分やらないということですか?

◎そう、当分というか……いやね、そのへんで仕事が入ってきそうなんですよ。そういうわかりやすい、よくまとまったもので、中身は複雑で人間が入り乱れるようなものでっていう注文で、マスコミの方とか、そういう仕事の話が来てるんですよね。

★そういうのは、どうされるんですか?

◎もう、そっちはそっちでやろうかと。レギュラーがあればねぇ、……あたしも、嫁の扶養家族になってますからねぇ、固定給がないんでね。保険証もね、裏見せないといけないんですよ。それを何とかオモテ面にしたいんですよね、俺の名を。

★自由業だと大変でしょうね。

◎大変ですよ、とりあえずいくつかレギュラー枠だけ、雑誌なりテレビなりラジオなりで手に入れて。で、そんなことはもうそっちの方面でしかしないですよ。よっぽど舞台でもおいしい話でもない限り。またはよそでそういうものがほしいと言うんであれば書きますけど。

★後藤さんにとっては、そういうまとまりみたいなものをどんどん崩していくのが、本来の線だというふうに考えていいわけですね。つまり、けっこう無茶苦茶したい方なんですね。

◎ええ。

★先ほど、芝居を見に来てる前の3列目までは笑ってやろうと身構えてるだけだとおっしゃいましたけど、笑える場面はいつも作っておられるでしょ? 犬も食わんようなギャグを入れてみたりとか、おちんちんに三角帽子付けて出てきてみたりとか、そういうのは、やっぱり必要で入れてるわけでしょう?

◎だって、俺、やってて楽しいですもん。楽しくないんであれば、やりませんしね、芝居自体を。

★ああいうシーンは、全部後藤さんが支持するんですか? 役者さんが自分でやるっていう場面もあるんですか?

◎いや、役者がっていうのは、まずないですね。全部、アドリブかなって思うようなところも俺がちゃんと書き込んで「アドリブっぽく」っていうような演出をしたりしてますね。

★ああ、そうですか。

◎ええ、割と汚い手をいっぱい使ってますよ。

★あのギャグは、お芝居の流れに沿って入れてるものだという意識はないんですか。

◎どっちか削れって言われたら、俺はストーリーを削るでしょう。

★じゃあ、最初から最後までギャグでダアーッていう方を選ぶと。

◎そんなものの方が興味がありますね。

★話は戻りますが、そうするとお客さんは笑うでしょう? その笑いと、さっきおっしゃった笑うためだけに来てる前から3列目までのが笑うのは、どういうふうに違うんでしょう。

◎どうなんでしょう……明らかに「お前らにはわからないよ」っていうのを入れても、笑ってるんですよね、彼らは。ボールベアリングの熟練した職人みたいな、数限られた人にしかわからないようなネタとか入れても、笑ってるんですよ。何で笑うんだよこれを、というのが、回を重ねるごとに腹立たしくなって。ある一部の人だけでいい、百人、二百人見に来てたら、一人でいいです。

★ボールベアリングの職人が?

◎そう、大笑いできる人が。一人でいいです。

★でも、その時って、ボールベアリングの職人であればわかるギャグを、役者は面白いことだというつもりで言うわけでしょ?

◎いや、あまり役者には知らせてない場合もありますよ。演出上は、とにかくお客さんに笑わせる間(ま)は絶対に与えるな、ということ。絶対ここでは笑いが来るんだけど、その上で、次に出るギャグの方が絶対面白いんだから、そのために、笑い終わるまで間をあけたりするなと、映画的なニュアンスで言いますね。聞こえなかったらそいつが悪いんだと。

★じゃあ、その時役者は、必ずしも笑わすつもりで台詞を言ってはいないということですか。

◎そういう部分は、うん、ありますね。

★そうすると、そこで3列目までの連中が笑っちゃうっていうのは、どうして、何がわかって笑うんでしょうか。

◎たぶん、ギャグの出てくるタイミングとか呼吸を、読みとっちゃってるんじゃないですか。これはギャグかそうじゃないのかわからないけど、とりあえず笑っときゃいいんだろうという感じ。だから、明らかにギャグじゃない部分でも笑ってますよね、連中は。

★もちろん、笑ってほしい部分ていうのはあるわけでしょう?

◎そりゃあ、あるでしょうね。

★そこでは、だいたい笑ってもらってますか?

◎笑ってますね。ほとんど違わず計算できますよ、「ここで笑う」「ここで笑う」って。何人ぐらいとか、ここで一番大きいとか。まだ公演してない台本に書き入れろと言われたら、もちろん役者の演技も付いてからですよ、俺はもう、一つも間違わず、入れられますよ、きっと。その気なら、台本を書く段階で「ここで客笑う」っていうのを全部書いても、きっとその通りに動きますよ。

★自分が意図してないところで笑われるのは、いやですか?

◎意図してないというのも、2種類ぐらいあると思うんですけどね……トチリでもあって笑われるのはいいでしょう、何か突然入ったとか。何でもいいから笑っちゃえという奴らの声が嫌いなんですよ。実はね、やってみたいなと自分の中だけで思ってることがあるんですけどね、覗き部屋のような、マジックミラーか何か衝立を立てて、隣の客の反応が全くわからない状態、自分と役者だけという状態でやってみたいですね。役者と自分しかいない世界。まあ、あんな芝居やっといて笑うなって言うのも、とんでもない奴かも知れないですけどね。どっかで、いろんな部分にあきあきしてるところがありますね。

★ある見方では、笑いをとってるように見られる芝居でしょ?

◎そうですね。

★下ネタ使うわ、ダジャレ入れるわでね。とにかくサービス精神で笑ってもらおうという芝居だと思ってる人もいるんじゃないですかねえ。

◎でしょうね。その弊害が一番大きく出るとね、もうストーリーを覚えてないんですね、誰も。それが東京に行ったときに、東京の初めて見るお客さんは全部フラットに見てくれたんですね。まず「何だこいつら」という目で見てますから。コメディの集団なのか、ちゃんとストーリーを見せに来た集団なのか。「じゃばら」っていう芝居の時でしたけどね。そうなるとやっぱり気持ちがよかったですね。全部をフラットに見てる。本当に、俺らが与えるものにだけ反応してくれる、何も準備していないし周りにも左右されない。

★先入観がないと。

◎そうです。

★だから、何度か見てると固まってしまう、あの役者が出てくるということは今度はこう来るなというような思い込みがないわけですね。

◎そう、そう。でも結局、東京も何べんも行ってたら、もう一緒ですよ。こないだ初めて名古屋へ行ったのが、とても面白かったです。それはそれは、よかったですよ、気持ちが。元気ない日とかありますよ、全然シーンとしてて無反応な日もありますけどね、気持ちがいいんです。

★つい「待ってました、◎◎さん!」っていう感じで、待ってしまいますからね。

◎俺も「待ってました」っていうような、何べんも同じキャラクターを毎回出したりするのもいけないんでしょうけど。

★いやあ、でも、あんまり裏切られてもねえ。

◎でも、いつもの人たちを楽しませるよりは、一見さんの方が好きですね。で、一見さんが初めて遊気舎を見に来たときに、周りの反応ですごい不快な思いをしますよ、今の状況だったら。「何がおかしいの、これ」って。「何でみんな笑ってんの、わかんないよ、これ」っていう状況って、かわいそうでしょ。できたら一見さんだけの回みたいなのをね、ちょっと安い値段でやれたらいいですけど。今まで見たことない人を集めて。

★たしかに遊気舎は個々の役者のキャラクターがはっきりしててしかも面白いから、ある人が出ただけで「こんなことやるんちゃうか」と楽しみにしてしまいますよね。じゃあ、そういうところを切りたいですか?

◎むずかしいですね。こっちも三十数人全部キャストで出してますからね。書いてて楽な部分はありますよ、あいつはこれでいいや、こいつはこれでいいやって。

★一回役割交代させてみたいというふうには思われませんか?

◎あんまり冒険しなくなっちゃいましたね、最近。それもまた自分が悪いのかも知れないですけど。

★そういう意味では、外の人が客演したり、外の人に書いたりする面白さっていうのは、あるんでしょうね。

◎ありますね。昔はほんとに刺激しあってたんですけどね。作・演出と役者たちってのが。だんだんお互い刺激するのも面倒くさくなってる状況があって。

★遊気舎が、後藤さんが作・演出をするという形になって、どれぐらいなんですか?

◎五年、いや、六年ですかね。二十歳でしたね、俺。劇団で最年少でした。柳井さんの原作、俺の脚色で初めて劇団でオリジナルをやった公演の後で、前の座長が「休むから、あと、お前がやれ」ってことになって、解散なら解散でもいいんだけど、やる気のある人は稽古場に集まってほしいということにしたら、ポロポロと来てくれたわけですよね。

★ということは、ほとんどゼロからのスタートだったわけですか。

◎まあ、そうですね。座長が休むと言ってるけど、もう帰ってこないんじゃないかって、みんなわかってましたしね。でも、特に名前を変えたりせず、とりあえず遊気舎という名前を引き継いでやろうよ、ということで。

★じゃあ最初の頃は前の名前を引きずってしまって、かえって大変だったでしょう?

◎大変でしたよ。前の偉い座長さんがいなくなったら、俺らはただの何でもない奴らですからね。いろんなところから本当にひどい目にあいました。ホールは借りれないしね。その時にまともに人間らしくしゃべってくれたのは、スペースゼロの古賀さんだけだったですね。入って2年目で座長になることになっちゃってね。

★とにかく、この5、6年の間に、再びその稽古場に集まってきてくれた人たち、つまり新生・遊気舎のメンバーたちの表裏というか、こんなこともできるんだぞ、と発見するシーンが徐々になくなっていくわけでしょうね。

◎そうですね。

★それは、もう一度何か刺激を与えることで、やっていけるというふうにお考えですか?◎ええ、そう思ってます。ちょっとここでは発表はできないですけど、でもおそらくそうなるだろうという計画があるんで。

★誤解を恐れずに言えば劇団としてのマンネリのようなものがあるとして、それを解決するのは、劇団をつぶすとか自分がどこかに出ていくということじゃなくて、劇団あるいは役者に刺激を与えることで解決していきたいということですね。

◎まず劇団としての隊形を根本から変えていかないと。最初はね、みんなで苦労してしのぎを削りあってやってきたつもりだったのに、俺の立場だけが全く違うところに浮いて来ちゃってるんでね、今の劇団の中で。そのへんの解消を考えたら、複雑な操作をしなければ、というのがありますね。

★作品の内容とかじゃなくて、劇団の運営とか組織面でのことなんですね。

◎そうですね。まず、そこから。作品がマンネリ化するっていうのは、あまり悪いことだと思ってないんですよ。俺は絶対にこれは後藤の台本だな、遊気舎の芝居だなっていうパターンがあるべきだと思うんですよね。今さらジェームズ・ブラウンにカーペンターズをコピーしロッテ言って、歌ったのを聞きたいと思わないですよ、誰も。JBはずーっとファンクをやってるから偉大なんですよね。だから、うちが見たくなかったらよそを見ればいいんですから。そういう選ぶ権利を与えるためにも、うちは特に何か、根本的な部分を変えようとは思わないですね。組織的、意識的な部分は変えていけるでしょうけど。またいずれ、役者と俺が刺激しあえるようなね、そんな組織に立て直していこうとは思います。あんまり仲良くないんですよ、俺、今、劇団と。

★ご自身でマンネリズムのよいところを意識するということになると、自分たちの芝居というのは、ここが一つのパターンだぞというところを意識しているということですよね。◎そうですね。

★じゃあ、それをもっと全面的に押し出して宣伝文句に使おうとはされないんですか。

◎何とかね、近い内に俺のやる芝居のパターンに名前でも付けばね。「ヒロヒティズム」とかね。

★いいですね、なんだか、天皇制みたいで。

◎そういうものがつけば。俺しかできないジャンルでもいいと思ってますよ。他の誰かがやったことに「それはヒロヒティズムの影響だね」っていう話は、どこにも起きる必要はないと思う。俺だけのジャンルとして、どこに頼まれようが、必ずヒロヒティズムが存在するというような仕事を展開できたらいいですね。

★自分の中では、これが俺のパターンだというのはあるわけですね。

◎あります。

★それをちょっと教えていただくわけにはいきませんか?

◎まだね、理論的にまとめるのが難しいんでね。何て言うんでしょう……「フリオ」ではちょっと実験してみましたけど、一つのストーリーだけを追っていくような作業じゃなく、それをぼかすかのように、どっちが主かわからないように、コミカルな全く関係ないような部分をいっぱい入れて、でもその二つはどこかで関係してるぞ、という感じですかね。

★それは手法とか見せ方の面での「ヒロヒティズム」ですね。

◎それがまず、一つでしょうね。

★さっきおっしゃってたような、幼い頃の環境とか、そういうものについてはそれほどこだわらないですか?

◎こだわりはないですね。2本のストーリーというのが好きで、全く関係ない正反対の話を並べたいんですよね。そうなると、まず先に思いつくのがコメディ部分の方のストーリーなんで、それに相反するぐらい暗い悲しいもの、後藤ってこんな悲しい過去があったんだろうかというようなカモフラージュを並べていって、書いてくうちに結局どっちも好きになってね。最終的には一つの話に収まっていく、というパターンはよくやりますね。

★ギャグ的なものと、ちょっとシリアスなものという二つの線は、両方同じように必要ということなんでしょうか。それとも、さっきおっしゃってたように、やりたいのはギャグの方で、1時間半なり2時間なりの芝居を作るには、ストーリーが必要だから作ってるということですか。

◎俺も話してるうちに支離滅裂になりますけどね、結局やっぱり、書いてるうちにどっちも好きになっちゃうんですよね。その間を取れなんて言われると、間なんてないんですよね、俺の中には。

★一つの筋が流れるよりも、二つの筋が流れててそれが最後に合う方が、大団円の感激が大きくなるということはありますよね。そういう効果は考えますか?

◎それはそうでしょうね。別々の脳味噌で見てたはずのものが、一つになるっていうだまし方は、やってて作業として面白いなと思いますね。

★二つを合わせる鮮やかさを見せるのが大事ということでもないんでしょうね。

◎特に大事ではないです。どっちかだけをやれと言われた片っぽが「フリオ」であったり、もう片っぽがいろんなイベントだったり。

★イベント?

◎何かいろいろイベントやらされたり、テレビの仕事やらされたりする時はもうそれだけって感じで。

★これまでのお話をふまえて、次の「ピロシキ」についてですが。

◎最近ね、遅筆作家という肩書きが付いてるんですけどね、俺、でも、今年一年で7本新作出すんですよ。一本お蔵入りがあって、「7144……」「ペガモ星人……」「フリオ」、で次の「ピロシキ」ですから、5本目なんですよ。一年間に新作を7本書ける奴は、いないですよ。だからもし俺を非難する言葉を探すならば、遅筆というのは間違いで、オーバーワークと言ってもらいたい。俺は特に面白くないものを作った覚えもないしね。「7144……」は嫌いだけど、でも俺は芝居終わってから「ありがとうございました」って頭下げなきゃいけないようなことをした覚えはないです。そいつらのためにちゃんと作ってんですから。俺はカーテンコールで頭を下げたことがないんですよ。謝まんなきゃいけないようなことだったら、最初からしなきゃいいじゃないですか。

★そういわれてみれば、たしかにフィフティ・フィフティですけどね。

◎そう。お客さんはお金を払って、それに釣り合うものを見せてると、俺は思ってますから。俺は頭下げないから、拍手したくなかったらしてもらわなくていいです。

★……それで、「ピロシキ」なんですけどね。

◎いや、「遅筆作家」というのを否定するために、俺は一言言いたかった!

★どんな作品なんですか。

◎バカな作品ですよ、かなり。まだ台本もできてませんけどね。

★よくわからないんですけど、台本ができていないうちにこういうチラシとかできてしまうっていうのが。

◎株で言うカラ売り、一種の犯罪ですよね。ない商品を売ってるんですからね。チケットもう売ってるんですから。芝居は往々にしてそうですけど。でもこれが当たり前だと言っちゃうとまずいんでしょうけどね。

★あらすじとか書いてないし。

◎だって、チラシ作ってる頃、そんなもんなかったですもん。

★これは「フリオ」系の、きっちりまとまった芝居ではないと。

◎本当の、オーソドックスな「ヒロヒティズム」。書きながらね、初めて書いてた頃を思い出しながら書いてますね。「7144……」で自分にすごく腹が立って、そのあとちょっとウェルメイド系な、よくできたようなものをうちじゃないところに書いてみて、俺は遊気舎で何をやんなきゃいけないのか、遊気舎っておれが何をやるためにいた集団だったのかって、もうはっきりしましたね。

★うーん、それは楽しみですねぇ。

◎ええ、だからもう、間違いなく「オーソドックス・ヒロヒティズム」の誕生です。

★じゃあ、これでお客さん減らすぐらいのつもりで。

◎もちろん。制作にはそんなこと、あんまり言ってないですけどね。これでもう、遊気舎に対する好き嫌いをはっきりしてくれ、と言いたいわけですよ。

★前3列ふっとばすぐらい。

◎そうですね。そこまで行けたらいいんですけどね、本当に。あの前3列は、何なんだろう……床に打ち付けてあるんじゃないですか、なかなかいなくならない。

☆(柳井)前、ヴィソツキーのことをどこかに書いてたけど、それは使うわけ?

◎そうそう、ヴィソツキーで芝居をやりたいってのがあったんですよ。ところがヴィソツキーだけだと暗いでしょ。他のソヴィエトのミュージシャンのもの聴いてもね、暗いかヘヴィメタでしょ? そんなときに、なぜかフィンランドからレニングラード・カウボーイズっていう奴らが出てきてね、それを聴いたら「あっ、今だ、できる」と思ったんですよ。コサック・ダンスのビデオをフォークダンス協会から借りてきたりとかね。

 これまではね、目的を持とうとしてたんですね、遊気舎にいて。

★演劇をすることの目的を?

◎そうです。それを今回、消し去りました。別にどこに行き着く必要もないだろうし、こんなものが後世に残るわけでなし。楽しい以上の理由はない、というのがね。

★「7144……」に続く3作は、目的があったということですか。

◎ストーリーをきっちり理路整然と並べて、テーマとかじゃなく、とにかくお客さんにストーリーをわかってもらおう、展開を楽しんでもらおうというのがあったけど、今度のはどこから入ってもいいですよ。インド映画見たいなもので、どこから見ても似たようなシーンですよ。かといってギャグを羅列してるだけじゃないですけどね。きっちり二重構造という、さっき言ったようなものはありますけどね。

★それは、比重としてギャグが多いというようなことではないんですね。

◎そうじゃないですね。気持ちの抜き方というかね、とにかく俺ががんばってないですよ。書きながらも作りながらも。

★「フリオ」までは、がんばってがんばって、きっちりしたストーリーを作っていたというわけですか。伏線をここで張ってとか。

◎もうきっちりと、念写するように考えてましたね。ああこれさっき伏線出したのにまた出しちゃったーって、何ページ前に戻って消したりね。

★ふつうわれわれが思うに、芝居作る人って、そうやってきっちりした世界を作りたいと思ってるんじゃないでしょうか。そういうのは演劇としてだめだというふうに考えたわけですか?

◎いや、俺だから。やっぱり、JBはカーペンターズを歌うべきじゃないんです。ちょっと「7144……」あたりでカーペンターズを歌ってたんですよね。気を抜く……何の気負いもない状態で作品を作れてる。遊びたい、楽しみたい一心で、お客さんは楽しまなくてもいいよっていうぐらいまで考えてるっていうことかも知れないです。

★でも、お客さんの笑えるシーンはたくさん入ってるんでしょうね。どんどん笑ってくれてかまわない?

◎かまわないですよ。さっきはいろいろお客さんを操作云々って言いましたけど、もうしょうがないです。金払って買われたもんですから。お客さんの先入観のことにしても、堂でもいいや、俺は楽しいよっていう感じですね。

★最後に、他の劇団や演劇をめぐる状況みたいなことについて伺いたいんですが。

◎まわりとか、年寄り連中、もう面白くないなっていうのはありますね。

★面白いなと思われてるところはありますか?

◎ガバメント・オブ・ドッグス。ここは進め方とか劇団の集団としての展開のさせ方に大きなミスがあるけど、やってるのはとても優れたことをしてますね。個性を全部打ち消してやってるんですよ。MONOの連中じゃなくても、新劇の鍛えられた役者であれば、その方がもっと面白いでしょう。オムニバスのコントをやるんですけど、故林が新作が集まると、MONOのメンバーをそのままガバメント……という名前にしてやるんですよ。彼は素晴らしいですね。

★あとは?

◎あとは……ないでしょう。

★なぜ今面白くないんでしょうか。

◎結局ね、ピスタチオもハイテンションもね、もっと昔はスマートだったはずなのにね、だんだん大阪の泥臭いものが侵略を始めてますね。ピスタチオに関してはね、やっとシャトナーが新作を書くらしいんで、ちょっと期待したいですけどね。一時期、ピスタチオ、ハイテンション、遊気舎って3つ並べていろんな雑誌で書かれましたけど、もう並ばないでしょ。いろんな意味で。方向性がきっちり3つとも分かれてると思うんでね。ただ俺は、演劇自体には興味がない状態なんで、演劇が俺を引きつけてるのは、すごい深層部分でしかないんでね。他の奴らに向かってがんばってくれだの、こうしたらよくなるよというのも、ないですね。

★興味がないというのは、演劇状況、演劇シーンというものにですか?

◎いや、演劇自体に。自分がやってても、演劇というものにはとにかく興味がないですね。自分の表現の場、って言うとかっこいいですけど、遊びの場を、今はとりあえず演劇に置いてるだけであって、俺は別のところでも遊べると思ってますから。

★すると、次には何をなさりたいんですか?

◎音楽のプロデュースとかね。あとはもう冗談じゃなく陶芸とかね。それをやるためには、演劇はスパッと切るでしょう。演劇だけが唯一の表現じゃないと思ってますからね。演劇に取り付かれてるという意識は絶対持ちたくないですね。

★30年後も演劇やってるということはないということですか。

◎それは絶対になしにしたいです。まずやってないでしょう。もう何年もないでしょう。3年ぐらいじゃないですか。

★それは、芝居をやりたくなくなっちゃうからですか?

◎たぶんね、演劇っていうのが一番手っ取り早い表現の場所だと思うんですよね。本かな、本が最初ですかね。もうちょっと面白い場所があれば、そこにどんどん移行したいですよ。面白いっていうのは、より難しい場所なんでしょうけど。

★映画とかは?

◎撮りたいですね。ほんとはね、映画がやりたくて遊気舎に入ったんですよ。ちょっと俳優の勉強をしようと。現場の空気をつかんでる奴は絶対強いから、というつもりで。それにしては長く足踏みしすぎてるんで。とりあえずまず映画は近いうちに動きたいですね。どんな形になるかわかりませんけど。

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